病院と診療所(クリニック・医院)の5つの違いとは?
2022.2.1
病院、診療所、クリニック、医院など医療機関にはさまざまな呼称がありますが、どのような相違点があるのでしょうか。
実は、「病院」と「診療所」(クリニックや医院も診療所と同じ意味として一般的に使われます)には法律で定められた明確な違いがあり、同じような治療を受けたとしても請求される治療費が違うケースもあります。
この記事では、これから開業を検討している医師のために、「病院」と「診療所」についてそれぞれの違いをご説明していきます。
ではまずは、病院と診療所の違いから説明していきます。
病院と診療所の違い
医業法によって医療を行える場所は、「病院」と「診療所」のみに限定されています。
医療行為を行えない整体院や接骨院が「◯◯病院」や「◯◯診療所」と名乗れないのは、この法律によるものです。
病院と診療所には、大きく5つの相違点があります。
病院と診療所の相違点
- 入院可能なベッド数
- 施設の数
- 医師や看護師の人数
- 役割
- 医療費
一つ一つ解説していきましょう。
入院可能なベッドの数
病院と診療所は医療法により下記のように明確に区別されています。
「病院」とは、医師などが、人々のため医業や歯科医業を行う所のことです。
20人以上の患者さんを入院させるための施設を持ちます。
「診療所」とは、医師または歯科医師が、人々のため医業や歯科医業を行う所のことです。
患者さんを入院させるための施設を持たない所、もしくは19人以下の患者さんを入院させるための施設を持ちます。
参照:法令検索(医療法)
つまり、20人以上の患者さんが入院できるのが「病院」。
入院施設がない、もしくは入院できるベッド数が19人以下しかなければ「診療所」にあたります。
診療所は「◯◯病院」と名乗るのは法律で禁止されています。
そのため、診療所は「○○診療所」よりも、一般的にわかりやすく親しみやすい「◯◯医院」「◯◯クリニック」などの名称をつける傾向にあるようです。
施設の数
それぞれの施設の数を比べてみましょう。
病院と診療所の数(2019年10月現在)
- 病院8,300施設
- 診療所102,616施設
参照:厚生労働省医療施設調査
圧倒的に診療所の数の方が病院数を上回っています。
ちなみに、コンビニの数はおよそ56,000軒。
診療所はコンビニの倍ほどになります。
医師や看護師の人数
次に医師や看護師の人数を確認していきましょう。
病院と診療所では、それぞれ医師や看護師の人数も法律で定められています。
病院と診療所での医師や看護師の人数(2019年10月現在)
- 病院医師は最低3名以上
- 診療所医師は1名でも可
また、医師1名が診察できる患者数も下記の通り定められています。
医師1名あたりの患者数
- 病院外来患者40名、入院患者16名
- 診療所上限なし
他にも、病院では看護師、准看護師、薬剤師、栄養士、放射線技師、作業療法士、理学療法士などの診療科ごとの専門スタッフの配置が定められているのに対し、入院施設のない診療所では「医師1名がいれば開業できる」となっています。
役割
「病院」と「診療所」にはそれぞれの役割があり、患者さんが適切な治療を適切な医療機関で受けられるようにすることが目的です。
日本では、患者さんが自由に受診する医療機関を選択できる制度が認められています。
そのため、軽症の患者さんが大きな病院を「何となく安心だから」と受診してしまうような「大病院志向・大病院信者」の弊害が起きています。
軽症の病気や軽度のケガで全員が病院に行ってしまうと、急に重症化した場合や不慮の事故などで大怪我を負った場合に、すぐさま病院で治療ができない事態が発生してしまうかもしれません。
そのような事態を避けるために、紹介状がない状況で病院にかかる場合には後述する「選定療養費」が必要となります。
軽度な症状の場合は「選定療養費」のかからない診療所の利用を国が推進しているからです。
医療費
次に病院と診療所の医療費の違いについてみていきましょう。
結論として診療内容が同じであれば料金も同じです。
なぜなら、行政の指導により共通単価が診療報酬として決まっているからです。
ただ、ここでの違いは「紹介状」の有無です。
もし、紹介状がない状態で病院の診察を受けたい場合は、治療費の他に「選定療養費」(初診5,000円、再診2,500円以上)が上乗せされます。
診てもらいたい診療科が病院にしかない場合などを除き、まずは診療所で大きな病気が隠れていないかなどを診察してもらい、必要に応じて紹介状をもらい大病院に行く流れになります。
病院の機能とは
一口に病院と言ってもその中で機能別に細かく分類がされています。
それぞれの病院に大切な役割を持っています。
機能別に見る病院の分類
- 特定機能病院
- 地域医療支援病院
- がん診療連携拠点病院
- 救命救急センター
- 周産期母子医療センター
- 回復期リハビリテーション病棟
- 地域包括ケア病棟
- 在宅療養後方支援病院
- 救急指定病院
- DPC対象病院
- その他
一つずつ詳しく見ていきましょう。
特定機能病院
特定機能病院とは、高い技術が必要な先端医療を提供できる病院を言います。
また、先端医療の開発及び研究開発も行っているため、保険が適用されない最先端の医療を提供している病院です。
医療法(1992年に改正)により設けられ、2020年5月1日の時点で承認された病院は全国に86施設あります。
地域医療支援病院
地域の必要性に伴い、病院と診療所の支援を受けながら医療を提供する病院を地域医療支援病院と言います。
地域の診療所の紹介で入院した患者さんをかかりつけ医が訪問でき、病院にいる医師と協力し共同で治療できる開放型病床や、慢性期の患者さんが急変した場合も救急医療を提供できます。
がん診療連携拠点病院
地域における専門的ながん治療の提供、医療の水準向上や連携強化、がん患者に対する相談や支援・情報発信などにも積極的に取り組む病院をがん診療連携拠点病院と言います。
がん診療連携拠点病院には、都道府県がん診療連携拠点病院と地域がん診療連携拠点病院の2つがあります。
救命救急センター
一次救急・二次救急では対応できない重篤救急患者の救命治療を役割としています。
救命救急センターには、専用の病床や診察室、集中治療室があり、主に脳神経外科や循環器科などの集中治療をメインにすべての重篤な患者さんを受け入れ高度な救命医療を24時間体制で提供が可能です。
また、手足の切断など生死に関わるような患者さんを受け入れることのできる病院を高度救命救急センターと呼びます。
周産期母子医療センター
周産期母子医療センターとは、周産期と呼ばれる出産前後の時期における、母体や胎児の救急対応を役割とする高度な医療を兼ね備えた病院です。
産科と新生児化科の両方が併設されているのが特徴です。
NICU(新生児集中治療室)などを保有する総合周産期母子医療センターと、地域周産期母子医療,センターの2つに区分されます。
24時間対応です。
回復期リハビリテーション病棟
疾患ごとに入院期間は定められており、急性期の治療期間を過ぎた患者さんの心身の回復(リハビリテーション)を目的とした施設になります。
回復期リハビリテーションは最長180日間の長期入院が可能です。
地域包括ケア病棟
急性期の治療を終えられた患者さんに対して、社会復帰できるよう治療・支援を行う他、退院後のケアについてもサポートする病棟です。
在宅療養後方支援病院
ご在宅で療養中の患者さんの緊急時に24時間対応で入院を支援する病院です。
患者さんは事前に、緊急時に当該病院への入院を希望する旨の届け出をしておく必要があります。
救急指定病院
救急医療対応を都道府県に申し出た医療機関のうち、条件を満たして認定された病院のことです。
救急医療の知識や技術を持つ医師が常駐し、エックス線装置や輸血や輸液用の機器など救急医療専用の病床を完備しています。
救急車で緊急搬送される患者さんはここに運ばれ治療や入院をします。
DPC対象病院
DPCとは、「診断(Diagnosis)、診療行為(Produce)、組み合わせる(Combination)」を略したものです。
診療行為ごとに一つ一つ計算する従来の方法ではなく、患者さんの病名や症状、手術や合併症の有無などに照らし合わせて医療費を計算する新たな定額払いの会計方法です。
この仕組みによって、収益目的の過剰な医療提供が減り、患者さんにとっても必要な医療費がわかりやすくなります。
その他
その他にも、臨床研修指定病院・結核指定医療機関・労災保険指定医療機関・救急告示病院・肝疾患診療連携拠点病院・DMAT指定病院・指定自立支援医療機関・労災指定病院・指定小児慢性特定疾病医療機関・特定疾患取扱病院などさまざまな機能を持つ病院があります。)
参照:ドクターズ・ファイル
病院と診療所にはそれぞれの役割がある
いかがでしたでしょうか。
「病院」と「診療所」には入院施設の有無、ベッド数やスタッフの人数の他にも役割において大きな違いがありました。
また、「診療所」は地域医療を活性化させ、「大病院志向」の弊害を取り除き、日本の医療体制を整えていく一翼を担っています。
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