医院開業時に知っておくべき!【継承開業とは】
2021.12.10
自分自身のクリニックを持つことは、多くの医師にとって目的のひとつだといえるでしょう。
しかし、医院を開くには医師としてのスキルや知識だけではなく、開業に向けた資金調達や土地探しなどの労力も必要になります。
そうしたなかで、近年注目されている開業のスタイルが、「継承開業」です。
継承開業は、活用次第で当事者だけでなくさまざまな面でメリットの大きい開業方法でしょう。
ただし、実施に当たっては基本的な知識を押さえておくことが大切です。
そのためこの記事では、継承開業の概要やメリット、注意点などについて解説します。
継承とは
継承とは、なんらかの権利などを引き継ぐことです。
特に事業の場合は「事業継承」と呼ばれ、会社の経営権を後継者に引き継ぐことを指します。
単に後継者を決めて引き継ぐだけなら、社長の交代でも充分です。
しかし、特に中小企業では後継者を決めるだけでなく、自社株の相続や個人保証のなどクリアにすべきことが多数あります。
さらに、トップが変わることに対する従業員の理解やノウハウの継承なども、重要な引き継ぎ時のポイントです。
こうした課題をひとつずつクリアしていき、事業を引き継ぐことに関して、「継承」との言葉が使われることが一般的なのです。
継承では経営権や店舗設備などの資産、さらに人脈なども引き継ぐことになります。
前任者の地盤を引き継いで新たな経営者で事業をスタートさせられることから、継承にはさまざまなメリットがあるといえるでしょう。
継承開業とは
特に医療分野での継承は、「継承開業」と呼ばれることが多いです。
継承開業とは、既に開業され経営が続いている医院を引き継ぎ、運営することです。
継承開業には、以下の2種類があります。
継承開業の大まかな種類
- ・親子間での医院継承
- ・第三者間での医院継承
医院を長年にわたって経営し続けても、もし後継者がいなければ閉院するしかなくなってしまいます。
これは院長個人にとってももちろん寂しいことではありますが、地域医療にとっても大きなマイナスです。
これまでかかりつけとして通っていた患者たちは、閉院によって他の医院を探さなければなりません。
地域によっては、適切な医院が見つからないこともあり得るでしょう。
働いていた従業員にとっても、新たな働き口探しを迫られることになります。
そして医療過疎が進めば、その地域からの人口流出が進んでしまう可能性もあるのです。
つまり、継承開業は新しく医院を開きたい医師にとってだけでなく、さまざまな面で大きな意義のある行為だと考えられます。
継承開業が注目される時代的背景
近年になって継承開業が注目されている裏には、進展する少子高齢化問題があります。
厚生労働省がまとめた資料によると、平成30年時点での診療所における医療従事者の年齢層は以下の通りです。
診療所の医療従事者の年齢層
年齢層 | 人数 | 割合 |
総数 | 103,836人 | 100% |
70歳以上 | 21,020人 | 20.2% |
60~69歳 | 30,734人 | 29.6% |
50~59歳 | 29,027人 | 28.0% |
40~49歳 | 18,305人 | 17.6% |
30~39歳 | 4,543人 | 4.4% |
29歳以下 | 207人 | 0.2% |
平均年齢 | 60歳 |
出典:厚生労働省「平成 30(2018)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
上記を見ると、ほぼ半数の医療従事者が60歳以上であることがわかります。
また、平均年齢の推移は以下の通りです
診療所の医療従事者の平均年齢の推移
年度 | H16 | H18 | H20 | H22 | H24 | H26 | H28 | H30 |
平均年齢 (歳) |
58.0 | 58.0 | 58.0 | 58.3 | 58.7 | 59.2 | 59.6 | 60.0 |
出典:厚生労働省「平成 30(2018)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
上記を見てもわかる通り、過去15年間にわたって徐々に高齢化は進展しています。
そして現在では平均年齢は60歳代に突入しており、診療所で活躍する先生の引退が増えていくことは想像に難くないでしょう。
こうした時代背景にあって、これまでの医師たちが築き上げてきた医院を継承するニーズが高まっていると考えられるのです。
継承開業のメリット
ここでは、継承開業を行う主なメリットについて解説します。
初期コストを抑えられる
継承開業のメリットとしてまず挙げられるのが、初期コストの低減でしょう。
もし新規で医院開業をするのであれば、以下のような設備を新たに揃える必要があります。
新規開業で揃えるべき設備の例
- ・レントゲン機器
- ・超音波診断
- ・内視鏡
- ・電子カルテ
- ・心電図
- ・診察机と椅子
- ・待合室のソファー
- ・通信設備
さらに、不動産を新たに取得する場合は、土地と建物を購入する費用や内装費などもかかってくるでしょう。
費用は診療科目によっても異なりますが、土地・建物の取得に数千万円、医療機器の取得に数千万円程度を覚悟しなくてはなりません。
開業直後は運転資金に不安があることもあり、上記の費用をしっかりと捻出できるように資金計画を立てていかなくてはなりません。
しかし、継承開業を行う場合は、これらのコストを抑えることが可能です。
資金繰りへの不安が大きい開業初期としては、コストを大きく抑えられるメリットは非常に大きいといえるでしょう。
カルテを引き継げる
カルテを引き継げることも、継承開業をする大きなメリットのひとつです。
新規開業する場合は、1から医院の認知度を高めていく必要があります。
集患のために適切な土地を探し、適切な広告戦略を行っていくことで、やっと経営を成り立たせることが可能になるでしょう。
しかし継承開業の場合、標榜が同じであれば前任者が持っている患者を引き継ぐことが可能です。
開業直後から多くの診療が可能となり、経営を軌道に乗せるまでの時間を短縮することにつながるでしょう。
広告にコストをかけなくてよいため、それだけ運転資金を確保しておけることにもなります。
また、カルテを引き継げることは、経営面だけでなく診察面にも好影響を及ぼすといえます。
初めて診察する患者でも、カルテがあることで診察履歴を把握しやすくなるのです。
患者側から考えても、全く通ったことのない診療所に行くよりは前任者から引き継いだ先生がいる診療所の方が通いやすいでしょう。
地域性を知っているスタッフを引き継げる
継承開業にはカルテを引き継げるだけでなく、従業員も引き継げるというメリットもあります。
古くからその場所で働いている従業員であれば、地域の特性や患者のことについてよく理解しており、心強い助けとなるでしょう。
費用をかけて採用を行えば優秀な人材は見つけられるかもしれませんが、土地や患者に詳しい人材はなかなか見つけられません。
カルテだけでは把握できない患者の特性などを早期にとらえ、細やかな対応を実現することにつながるでしょう。
また、患者の側からしても、今までと同じスタッフが対応してくれる安心感は非常に大きいと考えられます。
経験豊富なスタッフはとても貴重な経営資源であり、経営を早期に軌道に乗せる大きな助けになるのです。
継承開業の注意点
継承開業には多数のメリットがありますが、注意すべき点もあることは事前に理解しておかなくてはなりません。
そのためここでは、継承開業の注意点について解説します。
設備の入れ替えが必要になる
継承開業をする際には、既存設備の入れ替えが必要になる可能性を考えておかなくてはなりません。
既にさまざまな機器が揃っていることは大きなメリットですが、なかには経年と共に老朽化しているものもあるかもしれません。
また、たとえしっかりと使える機器であったとしても、既に方が古くなっている可能性もあるでしょう。
設備も引き継げる点は大きなメリットですが、入れ替えなくてはならない設備もある可能性は考慮しておくべきです。
事前に設備を確認し、入れ替えが必要なものは資金計画に入れておくとよいでしょう。
さらに、建物自体が老朽化している可能性もあるため気をつけましょう。
事前にきちんと確認しておかなければ、思わぬ費用を負担することで資金繰りが苦しくなってしまう恐れも充分にあります。
診療スタイルの相違がある場合も
前任者との診療スタイルの違いに悩む可能性も、考慮しておくべきポイントのひとつです。
院長によっては建物や設備だけでなく、自身の経営理念や診療スタイルなども引き継いでほしいと考えることがあります。
無事に継承したとしても、診療の在り方について口出しをしてくる可能性もあるでしょう。
また、患者の方から見ても、前任者とのやり方の違いに違和感を覚える可能性はあります。
事前にしっかりと告知や説明を行っておかなければ、「前の先生はこうじゃなかった」と離れていってしまう恐れがあるのです。
第一印象から嫌なイメージを持たれてしまうと、信頼を取り戻すために大変な苦労をすることも考えられます。
さらに、引き継いだ従業員たちからも、前任者との違いに反感を持たれる恐れはあります。
院内の人間関係を上手に築き上げなければ、運営が破綻してしまう可能性もあると考えておきましょう。
医療過誤やトラブルなども継承される可能性がある
継承できるのはプラスのものだけではなく、医療過誤やトラブルなどもそのまま継承される可能性があります。
患者とのトラブルだけでなく、従業員とのトラブルもそのまま残されてしまう恐れがあるため、事前の確認は必須です。
なかには前任者も把握できていなかった「負の遺産」が、引き継ぎ後に発覚することがあるため、徹底的に調べるスタンスが求められるでしょう。
よく調べずに継承してしまうと、経営の後押しとなるどころか足かせになってしまう恐れも否定できません。
ただし、こうした問題には開業する医師だけでは調べきれない部分もあります。
コンサルタントや税理士などにも協力してもらい、引き継ぎ予定の医院や土地、従業員に関するできる限りの調査を行いましょう。
医院開業に関する配偶者の理解
継承開業を行う際に、親子間での医院継承もあるとお説明しましたが、家族で経営を行っているところも少なくはありません。
そんな時に知っておきたい、配偶者の方に医院経営について理解を得る重要性やまkせるべき仕事内容があります。さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
継承開業について理解を深めましょう
いかがでしたでしょうか?
この記事を読んでいただくことで、医院開業時の継承開業についてご理解いただけたと思います。
継承開業を検討する際には、メリットだけでなく注意点にも目を向けて進めるようにしましょう。
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